● マラリア イスラエル、タイから
情報源 Emerging Infectious Diseases(EID)2025年6月18日
Summary
タイからイスラエルに帰国したマラリア感染例2例 two cases of Plasmodium knowlesi malaria について報告する。人獣共通感染症であるこのマラリアが、とりわけヒトのマラリアの感染が減少したタイ国内にまで感染が拡がっていることがわかった。渡航者のサーベイランスの重要性、分子学的診断、医療従事者への周知を行い、P. knowlesi malaria の適時の特定と対応が重要であることを強調する。渡航先に応じた渡航前カウンセリングの必要性と、同型マラリアの診断の困難度が明らかになった。
原著タイトル Plasmodium knowlesi malaria in persons returning to Israel from Thailand, 2023. Emerg Infect Dis. July 2025 [early release]
Plasmodium knowlesi, known as the 5th human malaria parasite は、サルと蚊族 long-tailed (Macaca fascicularis) and pig-tailed (Macaca nemestrina) macaques and Anopheles (Cellia) leucosphyrus mosquitoes の間の森林型感染循環サイクルが維持されている人獣共通感染性マラリアの1つである。
タイ国内では介入の効果によりヒトのマラリア感染 anthroponotic malaria cases が減っているにも関わらず、P. knowlesi infections は増加しており、公衆衛生上の懸念事項となっている。
2023年にイスラエルからタイを訪れていた2例 cases of P. knowlesi malaria について報告する。
Patient 1 は北西部 northwestern Thailand で感染したとみられ、感染地域の拡大の指標 a sentinel case for geographic expansion となる可能性がある。Patient 2 は既知の常在地域 a recognized endemic focus で感染していた。
2023年7月、7ヶ月間の東南アジアから帰国した翌日の25歳男性 (patient 1) が発熱、悪寒、嘔気、眼窩後部痛を訴え医療機関を受診した。最後はタイ北部 northern Thailand, beginning in Chiang Mai and ending with 12 days in Pai, Mae Hong Son Province に滞在していた。ジャングルトレッキング、サル見学に参加し、マラリア予防内服は行っていなかった。初回のマラリア迅速検査 An initial rapid diagnostic test for detecting histidine-rich protein 2 and aldolase は陰性であったが、再度行った histidine-rich protein 2 and lactate dehydrogenase 検査は弱陽性だった。厚層塗抹標本 A thick smear は陰性であったが、3時間後に再度塗抹検査を行ったところ nonspeciated Plasmodium が確認された。検査所見としては、白血球数と血小板数の減少と、ビリルビンとトランスアミナーゼ、CRP の上昇がみられた。
artemether/lumefantrine (80 mg/480 mg at 0 and 8 hours and then every 12 hours for a total of 6 doses) で治療し、完治し再発していない。
2023年3月、6ヶ月間東南アジアに滞在した34歳男性 (patient 2) について、同じ分子学的診断法を用いて P. knowlesi について評価を行った。男性は最後の2週間を Koh Phayam Island in Ranong Province, a recognized endemic area で過ごしていた。ジャングルハイキングを行い、サルとの接触があり、マラリア予防内服を行っていなかった。standard oral artemether/lumefantrine による治療を行い、完治した。
(マラリア遺伝子の解析結果について)
patient 1 は Pai もしくはチェンマイ Chiang Mai で(マラリアに)曝露した可能性があり、このことはタイ国内の北東部でのヒトの感染報告 the northernmost documented location of P. knowlesi human infection となる。これまでは国内感染例報告の北限は、
ミャンマー国境の Tak Province, bordering Myanmar とラオス国境の Uttaradit province, near the Laos border であった。
2023年に28万人以上がイスラエルからタイを訪れているが、帰国者のマラリア感染報告はほかになく、イスラエル国内では20年以上同マラリア感染 no other P. knowlesi cases は報告されていない。
さらに渡航者ではまれで、迅速検査で検出されず insensitivity、形態学的に他のマラリア原虫に類似し、間違った診断が下される可能性が高いことから、P. knowlesi malaria の診断は困難である。
感染初期の原虫レベルは低いかも知れないが、急速に高度原虫血症に進展する可能性があるため警戒を緩めるべきではない。(高度原虫血症は)the ability of P. knowlesi は、短い無性生殖サイクルと、全赤血球に感染する能力を有することによる重症マラリアの重要なリスク因子となっている。
マレーシアでは、地域病院の6-9%、三次医療施設の最大29%が重症化している。
国境地帯の森林地域に滞在していたこれらの患者は CDC の予防内服基準を満たしている (CDC)。渡航地域が広範で、ジャングルにも行っていることから、渡航先に応じた渡航前カウンセリングの重要性が示された。
結論として、
P. knowlesi malaria in patient 1 は新たな地域(タイ北部)への溢出の早期指標 early evidence of zoonotic spillover of P. knowlesi in a new area (northern Thailand) と考えられる。
References
● 麻疹 オーストラリア (NEW SOUTH WALES)
Summary
東南アジアからの渡航者が麻疹検査で陽性となり、シドニーで麻疹アラートが発出された。空港で暴露したおそれがある人々に対して体調に注意するよう呼びかけられている。
● 百日咳 カナダ (NUNAVUT)
Summary
two communities in Nunavut において百日咳アウトブレイクが宣言されている。容易に感染するが、ワクチンによる予防が可能である。抗生物質治療が可能である。
● A型肝炎 ポルトガル
Summary
複数の地域で A型肝炎アウトブレイクが発生し、特に小児に影響が出ていると保健当局者 The Directorate-General for Health (DGS) が明らかにした。接触者の追跡、リスクグループへのワクチン接種、周知活動などが行われている。
● 野兎病 米国 (COLORADO)
Summary
Larimer County 当局がヒトの野兎病感染例を確認している。野生動物からヒトに感染する細菌感染症で、昆虫の刺咬、感染動物との接触、汚染のある物質の暴露によっても感染する可能性がある。昆虫忌避剤、ダニ探し、野生動物との接触を避けるなどの感染予防対策が進められている。早期発見と抗生物質による治療が効果的である。
● ハンタウイルス インドネシア
Summary
2025年6月19日、保健省が複数の地域のハンタウイルス感染例を報告した。いずれも回復している。げっ歯類などの動物から感染伝播する人獣共通感染症で、腎出血熱症候群やハンタウイルス肺症候群の原因となり、これら2病型の症状は大きく異なっている。げっ歯類対策、衛生保持、教育資材の提供などの対策が行われている。特異的な治療法はない。異常なイベントの基準を満たす状況ではない。
● デング熱 バングラデシュ
Summary
今年、蚊族媒介性疾患により死者と感染者数が増加している。1日あたりでは今年最多の感染例が記録された。Several divisions and city corporations において新たな感染が報告され、入院患者がいる。昨年同様の状況が続いている。
● レプトスピラ症 インド (KERALA)
Summary
ケララ州 Thrissur, Kerala 保健当局は、レプトスピラ症 leptospirosis, also known as rat fever による死亡が増加しているとして市民に注意を呼びかけている。患者総数は昨年と比べてそれほど増えていないが、死亡例の増加が懸念されている。感染した動物の尿や糞との接触により感染が拡大する。症状としては、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、黄疸などがある。