2025年8月2日

乳児ボツリヌス症 英国

● 乳児ボツリヌス症 英国 2024
Summary
ピーナッツバターの摂取に関連する、英国内の乳児ボツリヌス症について報告する。アレルゲン食品導入のガイドラインに従っていたこの乳児が、ボツリヌス症の症状を発症した。ピーナッツバターの解析で原因菌が確認された。アレルギー予防の為、より一般的に行われるようになったアレルゲン食品の早期導入において、食品由来のボツリヌス菌への暴露を考慮することの重要性が改めて示された。乳児の食品由来感染症のリスクの可能性を認識しながら、バランスアレルギー予防対策を行うことの必要性が強調されている。

 情報源 Eurosurveillance 2025年7月31日
原著タイトル butter confirmed as the source in a case of infant botulism, United Kingdom, 2024. Euro Surveill. 2025;30(30):pii=2500512.
英国内で2024年5月に発生した、ピーナッツバターに関係する乳児ボツリヌス症 a confirmed case of infant botulism について報告する。この乳児は、ピーナッツアレルギーを低減する目的でガイドライン national clinical guidance, first issued in 2018 に従って、生後6ヶ月からピーナッツバターを与えられていた。ナッツは収穫あるいは製造過程でボツリヌス菌 Clostridium botulinum に汚染されていた疑いがある。
Case detection and description
生来健康であった6ヶ月の乳児が、2週間の便秘と前日からの不機嫌、食欲低下、嗄れた啼泣、鼻呼吸のため受診した。最近、完全母乳栄養から固形食を開始していた。ダストや庭遊びでの土との接触があった。血液と尿の培養検査、胸部レントゲン撮影、血中炎症マーカーは異常なく、鼻咽頭スワブでアデノウイルスとライノウイルスが検出された。
当初、敗血症疑いでセフトリアキソン ceftriaxone で治療が開始されたが、第5病日になっても活動性の低下 lethargy は改善しなかった。
head lag(引き起こしても頭がついてこない)、嚥下力低下、stridor、反射低下、両側眼瞼下垂を発症した。脳 CT 検査、脳 MRI 検査で異常を認めず、髄液検査 Cerebrospinal fluid (CSF) も培養を含め異常なし normal cytology and was culture-negative。
筋電図 electromyography で運動ニューロンリクルートメントの低下と compound muscle action potentials の減少が認められ、シナプス前の異常 a presynaptic disorder が示唆された。
ボツリヌス症 Botulism が疑われ、the Infant Botulism Treatment and Prevention Programme in the USA との協議の結果、第5病日目にヒト由来ボツリヌス・アンチトキシン human-derived C. botulinum antitoxin (BIG-IV) が発注された。
第6病日目には、換気低下により呼吸不全に陥り、気管内挿管と人工呼吸が必要となった。
第7病日の便検体がボツリヌス菌検査機関 the C. botulinum reference laboratory at the United Kingdom Health Security Agency (UKHSA) に提出され、Clostridium botulinum type A が検出され detected by PCR the next day and subsequently on culture、乳児ボツリヌス症と確定診断された confirming the clinical diagnosis of infant botulism。
第10病日目に免疫グロブリンの静注 BIG-IV が投与され、第20日病日に抜管したが、第30病日目まで非侵襲性補助呼吸が続けられた。
Intensive physiotherapy aided recovery, and the infant was discharged on day 44 with residual head lag and truncal instability. 
By day 65, muscular tone and power had normalised, but constipation persisted. 
By day 110, the infant had developed severe constipation, treatment of which was challenging due to their aversion to oral medications. 
Constipation had greatly improved by day 140 and resolved by day 234.
Source investigation
乳児の摂食歴の調査で、発症の10日前から市販のピーナッツバターが徐々に増量されながら与えられていたことが明らかになった。解析検査のため提出された容器の PCR および培養検査でボツリヌス菌 C. botulinum type A が検出された。遺伝学的解析 Whole genome sequencing single nucleotide polymorphism analysis (data not shown) では、乳児からの分離菌とピーナッツバターの菌が一致し、感染源と考えられた。この製品はローストされたピーナッツで作られ、ハチミツは添加されていなかった。
このほかに摂取した食品は、加熱または生の野菜、洗ったフルーツ、ヨーグルト、クリームチーズ、卵料理、で、いずれもリスクはないと考えられ、またはすでに入手できず検査されていない。
Discussion
米国で1977年にはじめて確認されて以来、英国内で確認された乳児ボツリヌス症例はわずか23例とまれである。
原則として生後12ヶ月未満に発生し、嚥下または吸入したボツリヌス菌芽胞が未熟な消化管内で発芽し、体内でボツリヌス神経毒を産生することによる。マウスモデルでは、わずか10個の芽胞でも嚥下すれば発症する。より最近の報告では、kg体重あたり14個の芽胞を含む食品の嚥下でも、成人(マウス?)の腸管ボツリヌス症が発生した。今回のケースで、ピーナッツバター中の芽胞数はカウントされていない。
ボツリヌストキシン The BoNT は、神経筋間隙での neurotransmitter 放出をブロックすることで、便秘と "floppy baby syndrome" を発症させた。ボツリヌス症の初期症状は一般的な小児の病気に似ており、進行してはじめて疑われることになる。敗血症などの感染症が疑われ、抗生物質 Broad-spectrum ntimicrobials が投与されることもある。菌細胞融解 C. botulinum cell lysis に続くトキシン放出  BoNT release により、ボツリヌス症状は急速に悪化するおそれがあるため、早期に感染症を除外診断し抗生物質を中止する必要がある。
英国において乳児ボツリヌス症の確定診断は、便検体または直腸洗浄液の培養および分子検査によりボツリヌス菌を同定すること the detection of C. botulinum through culture and molecular testing of feces or rectal washout によってなされる。
しかしながら、検体採取法としての直腸洗浄の認知度は低く、便秘では便検体はすぐに入手できず、診断の遅れにつながる。
ヒト由来の免疫グロブリン静注 the human-derived antitoxin BIG-IV による治療法があるが、現時点で米国内での唯一の入手先は only available from the Infant Botulism Treatment and Prevention Programme となっている。大部分の患者が集中治療 intensive supportive care including respiratory support と長期入院を必要とする。
ボツリヌス芽胞は普遍的に存在 ubiquitous, し、乳児ボツリヌス症の感染源が特定されることはまれである。英国内で微生物学的に関連性が証明されたのは、ハチミツ、粉ミルク、スッポン terrapin である。ダストや土壌中に C. botulinum spores が存在することが知られているが、範囲が広すぎて(感染源として)確認されたことはない。このほかの英国内でのリスク因子として、weaning, long distance travel, exposure to dust, and visits to petting zoos などがある。
今回の乳児ボツリヌス症の症例は、微生物学および疫学上、ピーナッツバターの摂取に関連していた。カナダの免疫不全の成人でも同様の腸管ボツリヌス症が報告され、ピーナッツバター内で3%のボツリヌス菌芽胞が確認されている。生のピーナッツには環境中の芽胞が付着しており、耐熱性で、製造過程でビーナッツバターに混入する可能性がある。ピーナッツバター内のボツリヌス・トキシンは調べられていないが、臨床経過からは、食品内で産生されたトキシンではなく、乳児の腸管内で芽胞が発芽し産生されたトキシンによるとの見方に矛盾しない。当時のイングランドにおいて、他のボツリヌス食中毒の症例は報告されていない。
質の高い国際治験 High-quality international randomised trials において、リスクのある乳児の食事にピーナッツを取り入れることで、その後のピーナッツアレルギーを回避することができることが示されている。
2018年、英国の科学諮問委員会 the UK Scientific Advisory Committee on Nutrition and the Committee on Toxicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the Environment は、生後6ヶ月ごろの補助食品開始後は遅滞なくピーナッツやその他のアレルゲン食品を含めることを推奨している。
さらに、ハイリスク乳児 babies at higher risk of allergy (defined as babies with severe eczema(重度の湿疹)or pre-existing non-peanut food allergy(ピーナッツ以外の食事アレルギー)) に対しては、固形食が摂取できれば4ヶ月から補助食とともにピーナッツも与えるよう、アレルギー・免疫学会 The British Society of Allergy and Clinical Immunology はアドバイスしている。他の国際学会のアドバイスにも沿う内容である。
今回報告した症例は、父親に重度のピーナッツアレルギーがあったため、生後6ヶ月からの乳児へのピーナッツバター導入されていた。
ピーナッツやその他の食品アレルギーは重症で生命に関わるおそれがある。英国の小児の約2%がナッツアレルギーを有している。他方、乳児ボツリヌス症はきわめてまれである。
とはいえ、これからもより多くの保護者らがガイドラインに従って、早期の乳児食にナッツやシードを導入することで、より多くの乳児が芽胞を有する食品に暴露し、an unrecognised botulism risk に晒されるおそれがある。
Conclusion
今回のピーナッツバターによる乳児ボツリヌス症の症例は、将来の重症アレルギーリスク回避の目的で乳児期早期にアレルゲン食品が与えられるようになっている中、食品由来のボツリヌス芽胞に対する認識を改める結果となった。

● HIV/AIDS ウガンダ (NTUNGAMO) 
Summary
Ntungamo District における新たな HIV 感染の増加は、都市部への感染拡大、規制のない性産業、周辺地域からの頻繁な流入が原因と見られている。周辺諸国からの性産業従事者の流入と性の乱れが感染拡大の要因と考えられている。国境地点の管理と違法な生産業の取締が呼びかけられている。

● カンピロバクター症 スウェーデン
Summary
スウェーデン国内でカンピロバクター感染症患者が増加しており、例年の季節性パターンに沿って、7月と8月にピークがあり、ブロイラーでも同様の傾向が見られている。

● レジオネラ症 米国 (NEW YORK CITY)
Summary
Central Harlem, New York City におけるレジオネラ肺炎アウトブレイクが調査されている。住民の、特に持病がある人々に注意が呼びかけられている。市内でのアウトブレイクはこれが初めてのことではない。

● 麻疹 インド (MANIPUR)
Summary
the Senapati district of Manipur において麻疹アウトブレイクの発生が確認されており、ワクチン接種の重要性が強調されている。

● ベクター媒介性疾患 インド (HARYANA)
Summary
Haryana のデング熱は閾値を超え、1つの地域がもっとも深刻な状況となっている。噴霧消毒、ボウフラ発生場所の除去、蚊族駆除のための魚類の放流を行っている。

● デング熱 フィリピン (ILOILO)
Summary
Iloilo 州保健当局は、デング熱に関連する死亡が増加していることを受け、症状がある場合は早期に受診するよう呼びかけている。

● レプトスピラ症 インドネシア (YOGYAKARTA) 
Summary
The Jogja City Government はレプトスピラ症の増加を受け、アウトブレイクを宣言した。

● エムポックス ケニア、ナイジェリア(2件)
ケニア
Summary
2024年7月に開始したエムポックス・アウトブレイクに関する保健省からの最新情報。

ナイジェリア (BENUE)
Summary
The Benue State Government は、複数の地域 across several local government areas でエムポックスが確認されていると明らかにした。ワクチン接種が計画されている。

● サルモネラ感染症 英国
Summary
国内のサルモネラ感染症アウトブレイクに、鶏卵サプリ食品 an egg product supplement が関係している。オンライン販売されたものも含めた調査が行われている。同業者は回収を行っている。この製品はフィットネス後と高齢者を対象としている。検出された菌は多剤耐性で、治療が困難であることが示唆される。

● ボツリヌス食中毒 イタリア (SARDINIA)
Summary
ある路上パーティー a street party in Monserrato のあと、複数名がボツリヌス食中毒により入院し、さらに疑いのある患者が調査されている。イベントのメキシコ料理スタンドで提供されたワカモレ guacamole が原因とみられている。

● B型肝炎 南スーダン (WESTERN EQUATORIA)
Summary
Yambio における一斉スクリーニング a mass screening initiative の結果を受け、Western Equatoria State の保健当局が B型肝炎拡大に懸念を示している。The Azande Kingdom's Health Department が対応にあたっている。

● 東部ウマ脳炎 カナダ (ONTARIO)、米国 (FLORIDA, SOUTH CAROLINA) 
Summary
Reports from Canada and the United States detail cases of Eastern equine encephalitis (EEE) in horses. 

● アフリカ豚熱 ベトナム (NINH BINH)
Summary
Ninh Binh province is taking measures to prevent and control African swine fever.